1)はじめに
事の発端は大井川鐡道のxだったか、鉄道系のニュースサイトだったかでこの列車の設定を知ったことでした。内容を見て「今行かないでいつ行く?」「乗らない後悔より、乗る後悔」が頭の中をめぐました。仕事でいろいろなことがありメンタルが落ちて撮り鉄稼業も休業に近い状況の中、悩んだ末に乗車する決断をしました。背景には、えちごトキめき鉄道で実施された「納涼急行」「バル急行」の乗車で、455系が次の全検で運用継続できるのか未定の中、「ここで乗らないと後悔する」と決めて乗車した件。またSLやまぐち号においては2機のSLが故障となって「DLやまぐち号」となり、SLが復活すると再び代走となるのはいつになるかもわからない見通しで撮影と乗車をした件。それぞれの判断と経験が後押ししたこともありました。
2)乗車当日
当初は、トーマス号を撮影してから乗車を想定してましたが、前日までの仕事でやられたこともあって始発時間に起きれず。とはいえ、最悪これに乗れば間に合う時間の列車は調べておいたこともあり、何とかその列車に乗り込んで現地へ向かいました。
16時頃に金谷駅に到着。接続の普通列車まで相当時間があったので、歩いて新金谷駅へ。そこで、以前から処遇が気になっていたオハニ36の状態を確認。この件は、別の機会に紹介するとして、ビール列車の入換作業やトーマス機関車の撮影を軽く実施。その後ちょっと時間があったので、近くのコンビニへ持ち込みのつまみと飲み物を買い、改め新金谷駅へ向かいました。
新金谷駅ではトーマス3便到着後しばらくは子供を中心にした家族連れの時間ですが、それらが引けるとこれから大人の時間です。受付を済ませ、駅舎内でしばらく待機。17時50分頃に準備が完了したとのアナウンスがあり、ホームへ。とりあえず荷物を座席に置こうと1号車へ向かうも、自分の名前が見当たらない。よくよく見ると号車を取り違えてたことに気づき、2号車へ。ここでももらった座席表を見るも違う人の名前。さらに確認すると車両の座席番号ともらった座席表の読み方が異なっていることに気が付いて、ようやく自分の席へ。
準備が整い、列車に乗り込む参加の方々。これからは大人の時間
OM SYSTEM OM-1 M.Zuiko Digital 12-100mm/f4 大井川鐡道 新金谷駅 2024.8.3
座席はボックスの半分(窓側)にテーブルを設置して2名、オハフ33は22ボックス、スハフ43は18ボックス。最小催行人数が38名とあるので、最低ボックスに1名づつですべて埋まる計算です。1名単独の場合は1BOX占有なので38BOXが埋まった時点で満席扱いのようです。見方を変えれば、2名で38BOX埋まる方が収益があがることになるので、おひとり様ばかりになると収益が上がらないことになります。そのあたりは相席も想定しているのか、不明です。ですが少なくとも3日は満席扱いだったので、BOX単位での満席判断をしているようでした。なお当日は複数名のグループ客が大半で、自分のようなおひとり様は10人もいなかったようです。
左のおつまみとサッポロビールがツアー提供品 中央のおつまみとドリンクは持ち込み
OM SYSTEM OM-1 M.Zuiko Digital 12-100mm/f4 大井川鐡道 2024.8.3
荷物を置いて出発前に少し撮影し、改めて予約した座席に着席。今日ここまでアルコールは一滴も入れず、金谷駅から新金谷駅まで徒歩と新金谷駅での撮影で汗だくになった体で、さっき買ってきたおつまみを広げ、提供された缶ビールを開け、最初の一口を頂きます。
「う~ん、沁みる~~。」
鰻の蒲焼の匂いよろしく、旧客独特の室内の匂いだけでビール3本はイケそう。この時点で満足度100%です。最初の一口からボーっと満足感に浸っているところに長緩気笛。列車は家山へ向けて出発しました。
今の列車では体験できない窓からの吹き込みと天井の扇風機からの風、吊掛けモーターの唸る音、「カタンカタンカタン、カタンカタンカタン・・・」と今時のロングレールでは味わえない走行音、ニス塗の匂いetc・・。
新型コロナ感染が落ち着き、昨年の5類移行後に3年間止まっていた経済が一気に戻り、自分の仕事もおかげ様で多忙を極める一方で、明らかなオーバーワークで心身ともに疲弊してました。そのような状態でこの日を迎え、列車が走り始めた瞬間に溜まっていた何かがこみ上げ涙が溢れ出てしまいました。
中学生の時、18切符片手に生まれて初めての鉄道一人旅の最初の列車が出雲市発福知山行き524列車で、かつては日本最長距離普通列車として長年運行されてた824列車の系統分割された列車でした。
その列車に乗車した、純粋に好きなことだけやって生きてればよかったあの頃に重なり、
「好きで就いた仕事なのに、結果として自分が追い込まれている今、どうしてこうなってんだろう・・。」。
さすがに周囲に見られるのは恥ずかしすぎるのですぐに涙を拭きましたが、「ガラスごし」でない流れる風景を眺め、しばし何も考えずビールを何度か口にしていましたが、そのうちそうした負の感情も消え、純粋なあの頃の気持ちに戻ることに。そして、心の中でつぶやいた一言が、
OM SYSTEM OM-1 M.Zuiko Digital 12-100mm/f4 大井川鐡道 2024.8.3
「最高かよ・・・・・・。」
自分は、前述の通り山陰本線で運用されていた旧型客車列車に運用終了前にギリギリ乗車できましたが、当時は中学生。当然お酒類は飲める歳でありません。そこから数十年、昭和が終わり平成へと時代が進み、令和となって元号三世代を経て、再び旧型客車に呑み鉄として乗車できたことに感慨深いものがあるとともに、心身ともに疲弊した自分をリセットするには十分過ぎる環境でした。
そうして感慨に耽っていている内に家山駅に到着し、ビール飲み放題会場へ。ここでビールサーバーの生ビールが飲み放題です。これと別で有料のおつまみで静岡おでんがあり、こちらを選択。
家山駅に到着したビール列車。ビール飲み放題の会場へ。
OM SYSTEM OM-1 M.Zuiko Digital 12-100mm/f4 大井川鐡道 2024.8.3
飲み放題のビールと有料で提供された静岡おでん(500円)。
OM SYSTEM OM-1 M.Zuiko Digital 12-100mm/f4 大井川鐡道 2024.8.3
家山駅の隣では、「かわねさくらマルシェ」が開催されてました。せっかくなので、こちらにも参加。こういうのって地域の「祭り」と言われてきたけど、最近は「〇〇マルシェ」とイベント名が名付けられることが増えたように思います。もしかして、神社仏閣が絡むイベントは「〇〇祭り」「〇〇祭」、絡まないイベントは「〇〇マルシェ」「マルシェ〇〇」に区別するようになったのでしょうか。
かわねさくらマルシェ。
OM SYSTEM OM-1 M.Zuiko Digital 12-100mm/f4 大井川鐡道 2024.8.3
ステージでのイベントの合間に、大井川鐡道の代表取締役社長に就任された鳥塚氏が挨拶。実は、この日のビール列車に友人の方々とともに一参加者として乗車されており、偶然にも自分の席の隣にいらっしゃってました。そんなプライベートな時間の中でありますが、大井川鐡道の社長として、沿線住民の方々へのご挨拶もかねてステージに立たれました。
挨拶を拝聴後にビールを片手に出店を見て何か食べようかなと考えてましたが、乗車前に追加で買った寿司とビールのお替りのせいでお腹いっぱい、食べ物は断念。
そういえば、機関車の機回し終了後の19時10分以降客車内へ入れる(通電なし)とのアナウンスを思い出し、ホームへ。確か、車掌の放送で「電気が点きませんが、それでも興味がある方はホームに入場しても構いません」とか言ってた気が(間違ってたかも)。
いやいや、車内が点灯していない状態だから撮れる絵があるから、興味大有りです(笑)。
これ、7000円で参加費を払わないと撮影できない場面なので、ここはビールそっちのけで撮影タイムです。補足すると参加者以外はホーム立ち入り禁止なので、ホーム上や車内を撮影をしたい方は、本イベント参加必須です。一方で走行写真を撮影するには本イベント参加できないので、痛しかゆしです。
通電が落とされたオハフ33車内。こういう場面って普通は撮れない。
OM SYSTEM OM-1 M.Zuiko Digital 12-100mm/f4 大井川鐡道 2024.8.3
通電されたスハフ43。向こうはかわねさくらマルシェ。
OM SYSTEM OM-1 M.Zuiko Digital 12-100mm/f4 大井川鐡道 2024.8.3
ビールを片手に、少ない人数の中でまったりと撮影。7000円でビール飲み放題、折り返し駅で旧客を被写体に撮影できるなんて、むちゃくち贅沢でコスパが良いです。罵声が飛ぶこともないし、みんな譲り合って撮影してるし、平和そのもの。
出発前のひととき。
OM SYSTEM OM-1 M.Zuiko Digital 12-100mm/f4 大井川鐡道 2024.8.3
歴史が刻まれた運転台(車外より撮影)
OM SYSTEM OM-1 M.Zuiko Digital 12-100mm/f4 大井川鐡道 2024.8.3
宴もたけなわ。
OM SYSTEM OM-1 M.Zuiko Digital 12-100mm/f4 大井川鐡道 2024.8.3
あれやこれやで撮影している内に、出発時間です。最後のビールを注いでもらって乗車。定刻の19時55分に家山を出発。かわねさくらマルシェの参加された方々が、お見送りで手を振っておられており、こちらも手を振ってお返し。優しい世界です。
通路を挟んで歓談するグループと、SNSへ今の状況を書き込み?しているグループと
OM SYSTEM OM-1 M.Zuiko Digital 12-100mm/f4 大井川鐡道 2024.8.3
復路用に缶ビールが1本提供されたのと合わせて、引き続き歓談の時間。なんていうか、最近の新幹線や特急列車は1両貸し切りでない限りは車内で大声で騒ぐことを由としないのがマナーでありますが、今日は貸切だったこともあってそのようなことはお構いなし。昔の列車内って貸切とか関係なく、特に酒が入るような夜行列車は雑多な雰囲気で、たばこの副流煙でモヤッた情景とヤニの匂いと車両が元々持っている車内の匂いが入り混じって、あれこそ「昭和の鉄道旅行」だったかもしれません。参加者のお顔を公表することはできませんが、皆さんほろ酔いでいい顔してました。
参加者の顔ぶれを見ると、私のように旧型客車をリアルで乗車した世代が中心である一方、和田岬線での本当の意味での旧型客車運用終了後の世代も乗車しており、世代の幅を感じます。若い人らには、この雰囲気をどのように感じたでしょうか。
新型コロナ感染拡大がなければ、こうした処置をされることもなかった。これも歴史の一つ。
OM SYSTEM OM-1 M.Zuiko Digital 12-100mm/f4 大井川鐡道 2024.8.3
列車は間もなく新金谷駅へ。到着前放送の後、参加者から自然と拍手が。なんか、出発前から最後まで多幸感に包まれた行程でした。
終点の新金谷に到着。
OM SYSTEM OM-1 M.Zuiko Digital 12-100mm/f4 大井川鐡道 新金谷駅 2024.8.3
新金谷駅到着後、いったん参加者は改札口外へ。待っている間に、先ほど乗車したビール列車の入換作業を撮影へ。出発前とはうって変わって周辺は静まり、機関車のモーター音が響きわたってました。
車内清掃後、留置線へと引き上げる作業へ。
OM SYSTEM OM-1 M.Zuiko Digital 12-100mm/f4 大井川鐡道 新金谷駅 2024.8.3
この後、金谷行の普通列車の乗車。車両は元近鉄ビスタカーでしたが、キンキンに冷えた車内のゆったりしたリクライニングシートに、ここでも、昭和の優等列車の違いを体感することができました。同形式は現在も近鉄で定期運用中ですが、旧型客車が大多数だった昭和40年でこの設備であれば、「特別急行」にふさわしい当時としては相当豪華な設備だったと想像します。
金谷駅への連絡列車。元近鉄16000系。
OM SYSTEM OM-1 M.Zuiko Digital 12-100mm/f4 大井川鐡道 新金谷駅 2024.8.3
参加者のほとんどが乗車し、定刻通り出発。ホームでは参加されていた鳥塚社長以下スタッフの皆様のお見送りがあり、こちらも応えて新金谷駅を後にしました。
3)乗車を終えて
今回の乗車では、鳥塚社長はプライベートでの乗車で私の隣で友人?の方々と歓談されてました。なんとなしに会話が漏れ聞こえていて、「やっぱそうですよね」って思ったのが以下の発言。
『全国各地に昔から列車ホテルがあったでしょう。あれが長続きしない理由は「走らない」からなんですよ。』(意訳)
廃車を逃れ、列車ホテルとして静態保存として活用されることそのものは非常に意味はあるし、現在営業している「列車ホテル」を運営されている企業体には敬意があります。一方で、以前にとある場所で宿泊した列車ホテルを「鉄道車両」として宿泊をした感想として、どこかで「これじゃない」感が利用後に感想として思ったのは、まさに「走っていない」ところからと、自分も以前から感じてました。故に、オープン当初こそ賑わってもその後が長続きしない最大の原因がそこにあると思ってます。もう一つこれは私見ですが、鉄道車両は「動かす」こととそれに見合ったメンテナンス(車体の定期的な点検、補修や塗装など)が必要ですが、大体の列車ホテルはそれがなされず、結果的に経年劣化で宿泊施設として耐えられなくなり、かつ前述の「物足りなさ」から鉄道ファンのリピートが続かないことで、メンテナンスの費用が賄えずそのまま解体される結果となったことが、歴史を証明してます。
※関連記事:和歌山に実在した20系列車ホテルのこと(日高川町にて)
鳥塚社長もそこがわかっていらっしゃるからこそ、動態保存を前提にした運用でいすみ鉄道でのキハ52やえちごトキめき鉄道での455系購入に踏み切り、動態運用することで継続的な利用者獲得とその車両の永続的な運用を支える収益に結び付いていると思います。大井川鐡道では活用できる車輛が大量にある一方で、資金難故に休車に追い込まれ活用しきれていない現状を変えたい思いがあって、社長を引き受けたと推察しております。
活用されずに放置状態となっている元「やまぐち号」用12系とトラストトレイン所有のオハニ36
OM SYSTEM OM-1 M.Zuiko Digital 12-100mm/f4 大井川鐡道 新金谷駅 2024.8.3
今、目先として「トーマス号」と「ゆるキャン▲」のコラボで集客できているものの、未だ不通区間が残り、地元の「足」としての役割が停滞している状況です。一方で鳥塚社長は、そうした地元の「足」の確保を目指す(全線運行再開)ことも明言されており、その確保の収益の手段として、こうしたイベント列車の積極的な運行を期待しているところです。
ゆるキャン▲コラボ。
OM SYSTEM OM-1 M.Zuiko Digital 12-100mm/f4 大井川鐡道 新金谷駅 2024.8.3
そういえば、この記事を書いている間に鳥塚社長のブログを読んでいたら8月11日の記事に「夜行列車やります」とさらっと書かれてました。昨年に日本旅行主催で実施されていましたが、今年もやるのかなあ。
最後に、この記事をアップした時点で定員未達で催行中止が4回あり、本来最初の運行となる7月26日と27日、そして8月2日がいずれも催行中止となり、この日が今年度最初の運行となりました。日程で予約に偏りがあるのはやむ得ないところでありますが、やっぱりどの行程も催行決定程度の定員の応募があって欲しいところです。
来年度以降も設定されるためにも、このブログを読んだ方々にはぜひ乗って頂きたいです。