「納涼急行」乗車記

74

 えちごトキめき鉄道では、2021年3月改正で引退した455系の1編成を譲り受け、かつてつの交直流急行色に塗装変更の上で、「観光急行」として復活しました。
 今回、その車両を利用して「納涼急行」として直江津~糸魚川間の運行として、8月の毎週土曜日に運行されました。455系自体は七尾線で乗車もしたし少ないながら撮影もしましたが、なんといっても酒飲み放題で地元の居酒屋さん提供のおつまみを食しながら約2時間の運行、七尾線では体験できなかった本線爆走による急行運転、そして多分破格値であろう6800円で利用できるということで、最終設定日の8月28日に乗車しました。

 

乗車当日。沿線で撮影した後、受付場所となる糸魚川駅へ。今回は2コースが設定されました。
1)糸魚川駅発着:クハ455を貸切号車として、糸魚川~直江津間で乗車
2)直江津駅発着:クモハ413、モハ412を貸切号車として、直江津~糸魚川間で乗車
公式ではこのあたりの説明がなく、また座席番号は乗車当日に案内、SNSでも乗車号車について詳細な情報がありませんでした。

 

 糸魚川駅に到着し、受付へ。ここで、初めて自分の座席が解ります。お一人参加なのでどの座席になるか不安でしたが、ボックスシート1組貸切となりました。ちなみに、3人組はロングシートに優先的に割り当てられたようでした。他の参加者を見るに、その時の応募人数のグループ人数で座席が決まるようでした。

糸魚川駅での受付。

糸魚川駅での受付。

 
 
発車案内表は「急行」。糸魚川から直江津までは、「急行4号」での運転のため。

発車案内表は「急行」。糸魚川から直江津までは、「急行4号」での運転のため。

出発前の様子。

出発前の様子。

 

 割り当てられた席へ。進行方向反対の席には今日のおつまみセットがすでに準備されてました。包み紙も特製であしらっており、裏にはおつまみの内容が紹介されてました。

進行方向の反対側に用意されたおつまみセット。

進行方向の反対側に用意されたおつまみセット。

 

おしながきは以下の通り。この弁当は能生駅前にある「汐路」で調理されたものです。
・さざえのつぼ焼き
・紅ズワイガニの焼物
・越の丸ナスの田楽味噌
・玉子焼き
・昆布巻き
・キングサーモン 味噌漬け
・カニ旨辛味噌胡瓜
・自家製焼き立てエビハンバーガー
・鶏のから揚げ
・パイナップル
・甘エビ・カニフライ
・自家製えご(新潟の郷土料理。詳しくはこちらのリンクへ https://shop.ng-life.jp/s0770/0770-001/
・もち豚生姜焼き
・枝豆
・お寿司(甘えび・ホタテ・キングサーモン・カニ・アナゴ)
中々の品数とボリュームで、酒のアテに良し、〆のお寿司といい感じの弁当です。

おつまみセット中身

おつまみセット中身

飲み物は飲み放題。但し、空き缶(空瓶)交換制。
・ビール(アサヒスーパードライ・キリン朝一番搾り・サッポロ風味爽快ニシテ)
・チューハイ(氷結 シチリア産レモン)
・ハイボール(角ハイボール)
・日本酒(君の井 http://www.kiminoi.com/
・ソフトドリンク(コカコーラ・お~いお茶・オレンジジュース)
日本酒飲める人なら、君の井一択でしょう。わざわざ新潟まで来て地酒を飲まないのは勿体ないです。

飲み物メニュー

飲み物メニュー

 

 暑い最中での撮影と、自分の中で「もらった!」と撮影できた満足感を携えて、出発を待たずにまずは冷えたスーパードライで乾杯。撮影の後の酒は格別であります。

 

 列車は糸魚川駅を16時40分に出発しました。糸魚川から直江津へは、「急行4号」として、観光急行で運行しており、糸魚川方1号車であるクハ455が納涼急行組として貸切に、残りの車両は通常運用として、急行券利用者の乗車組となります。

進行方向の反対側に用意されたおつまみセット。

進行方向の反対側に用意されたおつまみセット。

 出発してほどなくデッドセクションを通過です。七尾線では津端~中津端間で幾度となく体験、撮影したデッドセクション通過時の消灯の儀式が、ここでも行われます。もともとえちごトキめき鉄道は開業にあたって、直江津~市振間においては利用実態と将来含めての車両購入と検修費の抑制のために両運転台気動車を新製導入しました。この辺りは肥薩おれんじ鉄道と同様の事例となります。そのため、開業以降は糸魚川より先に交直流電車の運用がなくなり、ここでの通過儀式も過去のものとなっておりました。それが、鳥塚社長の発案により、JR西日本が所有していた交直流電車を譲り受け同社の目玉商品として売り出すことになり、結果としてデッドセクションの儀式も復活、観光の売りになった次第です。

 デッドセクションを通過しておつまみを頂きながら、車窓を眺めての酒を呑む。
 
 「善きかな、善きかな」。

 と言っている間にビールは空いてしいました。

デッドセクション通過

デッドセクション通過

 
 係員を呼び、2本目は待望の日本酒「君の井」をもらいます。
 妙高市の地酒を呑みながら、地元食材によるおつまみ。そのおつまみのなんと日本酒に合うことか。そして、耳に聞こえるのは、フルノッチでぶん回すMT54モーターの爆音。車窓に目をやると途中の小駅のホームが流れて、あっという間に視界から消えてゆく・・・。

 列車は能生駅を過ぎ、トンネル区間へ。先ほどのモーター爆音がトンネル効果でさらに倍増。
 「ウォーン」というモーター音を響かせながら、高速でトンネル区間を走行。ロングレール特有の「カタカタ・・・。」という音が流れていきます。
 ほどなくして筒石駅を通過。往路の行程も半分も過ぎて、列車は直江津へと順調に進みます。2杯目から頂いている「君の井」も飲み干し、3杯目へ。おつまみも着々と食していきます。

 

 やがて列車は減速し、広い構内へと進入。定刻通り直江津駅に17時8分に到着しました。

 ここで、2号車と3号車が貸切車両となり、直江津発組がここから乗車となります。ここから糸魚川までの往復は、今回の企画として特別運行される運用となります。直江津駅では38分の停車で、その間にいろいろと記念撮影をします。

ご神体に「君の井」へ献杯

ご神体に、「君の井」で乾杯。糸魚川駅にて。

 

 他の糸魚川発組も降車して、撮影会です。今日の糸魚川駅発組は10組で、人数にして15名程でした。係員の人曰く、それまでの運行ではここまでの利用がなく、この日が一番多い予約とのことでした。お盆時期が重なったのと、急遽決定した企画であって周知が不足したこと、酒飲み放題ゆえにお酒が呑めない人に敬遠されたのでは?との理由で、出足が鈍ったのではないかと思いました。当然ながら、新型コロナの感染拡大の中で、どうしても旅行を控える人達が大多数であったことも言うまでありません。
 余談ですが、乗車直前に緊急事態宣言の延長とまん延防止措置法が富山県に適用されたことで、同日に予定されていた「雪月花」のあいの風とやま鉄道への乗り入れイベント列車が中止されたことで、こちらのイベントも中止になるのでは?と不安になりました。が、幸い?運行区間が新潟県内だったことが幸いして中止にならなくなり、安堵もしました。

 話を戻して、この企画は私的には、酒は飲み放題だし、おつまみは豪勢だし、かつての国鉄型急行車両を体験できて6800円でしたから、破格値と思っております。また、軒並み類似イベントが中止されている中で、今回この企画を実施したえちごトキめき鉄道には感謝の言葉しかありません。

えちトキの社員さんと急行サボ。

えちトキの社員さんと急行サボ。

 

 そうこうしているうち、発車時刻が近づき車内に戻ります。4本目の「君の井」を開けて、列車は定刻通り17時46分に発車しました。
 ここからは直江津組も乗車して、3両すべてが納涼急行の列車として出発しました。


 直江津からは鳥塚社長が乗車されました。鳥塚社長の件はこの後として、列車は能生駅に停車します。ここで、撮影会。急行運用なのになぜ能生駅で停車?ですが、これには「能生駅事件」に由来しており、本企画でも同駅での停車を実現した次第です。

能生駅にて。プチ撮影会。

能生駅にて。プチ撮影会。

 
 能生駅発車後、鳥塚社長がやってきました。ここからは、ご神体クハ455-701奉る四五五神社への寄進の呼びかけのために、鳥塚社長自ら賽銭箱を手押しして乗客にに寄進を求めます。私もお賽銭箱へ寄進しました。ご利益はもちろん、末永くこの車両が活躍することを祈念しました。

四五五神社のお賽銭箱。ご神体はクハ455-701.

四五五神社のお賽銭箱。ご神体はクハ455-701.

ご神体の説明。運行開始日が例祭。

ご神体の説明。運行開始日が例祭。

 万物に「神」が宿る思想の日本人だからできること。というか、鉄道車両がご神体になった事例は、ひたちなか海浜鉄道の「キハ222」に次ぐ2例目。


 食後のデザートとして、駄菓子セットと冷凍みかん。そういや、昔は夏のキオスクの定番商品だったなあ、と思い出しながら食しました。冷凍みかんなんて何年ぶりに食べたんだろう。

冷凍みかんと流れる車窓と。

駄菓子セット。乗車証明書も入ってます。

 

  能生駅を発車して、再び列車は海岸沿いをひた走ります。ちょうど日本海に沈む夕日が現れました。車掌の案内とともに乗客は海側に視線をやり、沈みゆく夕日を撮影してました。日中は雲の多い日でしたが、日没直前はちょうど雲が切れており、綺麗な夕日を眺めることができました。

E-M1 MarkⅡ+Zuiko Digital 9-18mm/f4-5.6 浦本~梶屋敷 えちごトキめき鉄道 納涼急行

E-M1 MarkⅡ+Zuiko Digital 9-18mm/f4-5.6 浦本~梶屋敷 えちごトキめき鉄道 納涼急行

 

 やがて日没となり、再びデッドセクションを通過。列車は間もなく糸魚川駅へ到着です。おつまみはいい感じで完食。ここまで呑んだお酒は、ビール1本(500mm)と君の井カップ酒4本でした。2時間でこれだけ呑めれば大満足です。

再びデッドセクション通過。



 糸魚川駅に定刻通り18時30分着。ここで今回の旅は終了です。

糸魚川駅にて。直江津行の発車表示は「団体」

直江津に向けて出発を待つ。糸魚川駅にて。

 

最後に鳥塚社長とともに記念撮影もさせてもらい、今回の企画に御礼を申し上げました。

 

 新型コロナウイルス感染拡大で、鉄道での旅も含めて「旅行」というものがこうも贅沢なものになろうとは思いませんでした。「旅行」「観光」の需要が消滅とも言っていい中で、可能な限りの範囲で集客をして売り上げを確保することに腐心する鉄道事業者。一方で、対策万全でもこうして開催される集客イベントすら憚れ、仮に開催されても何か事件が起こると、それがSNS界隈では背景とか現場の詳細を深堀をせずに表面的な情報と切り貼りされた発言で、非難をされるほどに世知辛い今。
 正直、今回の記事も乗車後すぐにとも思っていたものの、「万が一」「たとえその列車で乗車したことが原因でなくとも」、新型コロナウイルスに罹患したらこの企画そのものが非難の的になることが想像されたため、今日まで記事にしませんでした。乗車から2週間が経って、ひとまず罹患しなかったことが確認されたことで、今回この乗車記をまとめました。

 皮肉にも、新型コロナ感染対策のために乗車人員を制限することでワンボックス1名での乗車となりました。本来なら4席分4名での発売、あるいは1名に対して4名分の料金を徴収したいのが鉄道事業者の本音と思いますが、それでも1名分での料金設定してくれたことに感謝しかありません。多分そのあたりを理解されている鳥塚社長だからこそ、設定された料金設定かと思います。

 またオタク、マニア、ファンなどいろいろ呼ばれ方はありますが、彼らは厳しいこの情勢でも、少なくともご神体に対して「お金を落としてくれる」上客であることを鳥塚社長自身が重々承知していることは、前職のいすみ鉄道でも垣間見えております。一方、「アフターコロナ」(がどのような状況を指すのか想像できませんが)において本来の固定収入であった定期客すら減少傾向で鉄道収入が以前ほど補えない経営状況が見えてきております。今、感染リスクがゼロでなくともこうした企画も積極的行って集客を行うことで、地元の路線を残していく方策の一つでもある本企画が、減少した鉄道収入の増収に繋がる「種まき」だと、この「観光急行」とそれを水平展開した今回の「納涼急行」や「夜行急行」と思っております。

 そして、私も含めて参加者においては、感染リスク低減のために最大限の配慮を行っていたことも付け加えます。アルコール消毒はもちろん、グループ参加者は黙食の徹底で、会話をする場合は大声を出さずにマスク着用で会話、といった具合です。実際、走行中の車内は静かなものでした。それだけ、参加者の方々はこの企画を大事にし、外野のクレームで潰されたくない想いがあったと想像しております。
 次回もアルコールを提供する企画が開催されるかは不明ですが、機会があれば参加したいと思った、一日でした。

 えちごトキめき鉄道の更なる発展とクハ455の末永い活躍を祈念して、本記事の結びとします。

 

関連記事